現在、日本では新型コロナウイルスの治療薬としてレムデシビルとデキサメタゾンが承認されていますが、これらの薬は実際には重症化した人に使用すると回復する時間が短縮するぐらいの効果しかありません。
本来、治療薬というのはインフルエンザの時に使用するタミフルなどのように感染初期に使用して効果があるものでなければいけませんが、レムデシビルとデキサメタゾンは重症化してからでないと使用できない薬ですので、とても治療薬と呼べるものではありません。
流行初期に吸入ステロイド薬のシクレソニド、抗菌薬のクラリスロマイシンに重症化予防が期待できるかもしれないという報告があり、香港では感染初期の患者さんにこの2剤を使用するプロトコールを行っていると香港在住の医療関係から情報を得ました。
ステロイド剤は強い抗炎症作用を持つ反面、免疫抑制作用もありますので、全身投与を行うと免疫抑制作用から逆に感染しやすくなる恐れがありますが、吸入薬で気管支だけに作用させるのであれば投与量も少量で済むので抗炎症作用の方が勝れば重症化予防に繋がる可能性があると考えられました。
クラリスロマイシンは抗菌薬なので本来はウイルスには効果はありませんが抗炎症作用、免疫活性化作用があるとされていて、抗炎症作用、免疫活性化作用を期待して投与を行うのは理に適っていると思われました。
そういう事もあり当クリニックでは新型コロナウイルスPCRは行わなくても症状の強そうな患者さんに対して吸入ステロイド薬とクラリスロマイシンの投与を行っていました。
しかしシクレソニドは、国立国際医療研究センターが行った特定臨床研究で、対症療法群に比べて有意に肺炎の増悪が多かったとの結果が出たために、無症状・軽症の患者に対するシクレソニドの投与は推奨できないと方針が出されました。
香港在住の医療関係者の方に確認すると香港でも同様に肺炎の増悪が多かったために早い段階で推奨が取り消されていたようでした。
ステロイド剤の抗炎症作用よりも免疫抑制作用の方が強く出たために肺炎が増悪したと思われ、その結果を踏まえ当クリニックとしましても吸入ステロイド薬の使用は行わないよう方向転換しました。
デキサメタゾンもステロイド剤で、ステロイド剤には免疫抑制作用以外にも色々と副作用がありますが、重症化した患者さんに対しては抗炎症作用が最優先され、ある程度の効果が認められているため使用されています。
人間の身体が方程式を解くように行った治療が何でも上手く行くのであれば、こんな簡単な事はありませんが、効果があると思って行ったのに上手く行かない事もあれば、それほど期待していなかったことが意外と効果を認めたという事もありますし、似たような症状に同じような治療をしても違った結果になる事もあるなど、人によって全て対応が異なってきます。
まだまだ分からない事も多いですが、分からない事があれば調べたりもしながら皆さんの健康のお役に立てるように研鑽していきたいと思っています。